1. HOME
  2. コラム
  3. コラム
  4. 新しい事業の未来を左右するソフトウェア人財への実践的リスキリングとは

新しい事業の未来を左右するソフトウェア人財への実践的リスキリングとは

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
新しい事業の未来を左右するソフトウェア人財への実践的リスキリングとは

車載分野では自動運転やEV化などの技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために従来のハード・メカ開発者をソフトウェア開発者にシフトするためのリスキリングを進める企業が増えています。車載分野に限らずDX推進のためにソフトウェア人財を確保する必要に迫られています。ここでは、ソフトウェア人財へのリスキリングを効率的かつ確実に進めるための方法を紹介します。

1.EVシフト加速によるエンジン部品メーカーの“生き残りのためのリスキリング”

 車載分野において、EVシフト加速の影響によりエンジン部品メーカーは生き残り戦略の1つとして、制御ECUを中心としたシステム開発への転地やソフトウェアサービスの事業創出が急務となっています。

 しかし、メカ・エレキ人財を中心とした部品メーカーでは、容易に開発に必要なソフト人財を確保できないため、社内の技術人財を活用し、ソフトウェア技術者に転換をはかるリスキリング(Reskilling)を行う会社が増えています。リスキリングによりソフト技術の手の内化も同時に進めることができます。

 リスキリングと似た概念としてアップスキリングがありますが、こちらは、既にソフト開発実績のある人財に対し技術革新に必要な“新たなソフト技術”を“追加“教育することを言います。

リスキリングで壁を超える!ハード単体部品メーカー(ソフト技術の早期立上げ)→アップスキリング(アドスキル)|ECUシステムメーカー(ソフトの大規模化・複雑化への対応)→サービスプロバイダー(新たなIT技術導入・活用によるイノベーション)


2.多様性に富むリスキリング対象者に合わせた“ソフトウェア教育戦略の必要性”

 リスキリングも従来のソフトウェア教育と内容的には同じです。しかし、一般的にリスキリングの対象者は、自らの専門知識を活かした実務経験を持っているものの、専門技術分野や業務経験、年齢などはバラバラで多様性が高く、前提となるソフトウェア知識が少ない場合が多いと言えます。そのため、限られた期間内に「期待する実践力」を身に付けるためには、その特徴を理解して、目的や対象者に合わせた教育戦略やきめ細かい実施方法を考える必要があります。

リスキリング(年齢、専門技術、職務経験などが多様。実務経験あり。ソフト技術知識がない)⇔新人教育(年齢は20代前半、専門性も近い。実務経験なし。情報系や制御系などの教育を受けている人が対象)→リスキリングにおける考慮点(リスキリングの考慮点は新人教育にも適用可能)|個々人の理解度やペースに合わせたきめ細かい指導が必要。高いモチベーションを維持させ「自らの学び」を支援できるだけ実開発に近い課題解決型の実践教育。基礎知識が無いので、専門用語レベルなど基礎の基礎や原理原則の丁寧な指導が必要


3.『実践力強化』を重視したソフトウェア人財育成全体像

 リスキリングを行う組織が求めているソフウェア人財は、リテラシー(知識)はもちろんですが、コンピテンシー(行動特性=実践力)を身に着けた人財です。

 コンピテンシーを習得するには、実開発に参画し場数を踏むのが一番ですが、仮想プロジェクトでのPBL(Project Based Learning)や、より実践に近いOJT(On-the-Job Training)などの方法がとられることが一般的です。

 OJTと一言でいっても開発する内容や実施する環境はそれぞれ異なります。それぞれの条件下で最適な教育効果をあげるためには、何を目的・目標に何をどうやって教えて、育成効果をどう測るのかといった、教育全体の設計すなわち「インストラクショナルデザイン(Instructional Design)」が必要です。

 研修が終わったときにどのようなスキルをどのレベルまで身に着けていて欲しいのか、そのためには何をどのように教えるのが効果的かつ効率的なのかをしっかり考えて、育成内容を設計する必要があります。

 リスキリングを行う組織の事情として、元々ソフトウェア人財が居ない中でOJTを行う環境を準備しなくてはならない場合も多いので、ここは社外も含めた教育実践の場を準備する方法を考える必要があります。また、社外であっても、教育の実践においては、きめ細かくフォローすることが必要です。

インストラクショナルデザイン【STEP1】育成目標の明確化(育成したいのは開発の上流がわかりプロジェクトを牽引できるコア人財)【STEP2】育成戦略立案(スキル目標と現状とのギャップを明確化し育成者とも共有目標を最短で達成するための取組み戦略を立案)【STEP3】研修計画作成(教育体制/指導内容/指導方法/評価基準/評価方法を決定)→研修計画に基づく教育の実施と評価・改善


4.成果物は人財!改善可能で効果的な“PLAN-DO-SEE”を回す育成プロセスとは

 人財育成プロセスを「成果物である人財」を開発するプロセスであると捉えると、一般的なソフトウェア開発プロセス同様に要求分析、アーキテクチャ設計(戦略立案)、研修設計、実施、評価という流れに当てはめることができます。V字プロセスに合わせると、左側が「PLAN=要求・戦略・詳細計画」、下が「DO=教育実施」、右側が「SEE=教育効果測定」となり、PLANとSEEはそれぞれの段階で対応付けられます。期待と結果が異なる場合は、どの段階の計画が結果に影響を与えたかを分析し改善することも可能です。

 効率的な教育を行うためには、目標(ゴール)の明確化が重要であり、育成ゴールを具体的にイメージし共有することで、ゴールに最短で到達するための戦略やそれを実現するための研修内容に落とし込むことができます。既存の研修を組み合わせて利用する場合でも、ゴールに対するギャップを明確化することで、より組織の特性に合った効率的かつ確実な育成を行うことができるようになります。

 開発同様、人材育成についても上流工程が大事だといえます。

【人財育成プロセス】①要求分析|人財育成目標明確化ゴールと現状のギャップ明確化②アーキテクチャ設計|ギャップを埋めるための戦略・戦術立案(教育方法と検討方法を明確化)③詳細設計|個別研修計画立案(期間、体制、コンテンツ等)④実装|研修準備/研修実施/受講者モニタリング(理解度、スキル、状態)/フォロー/改善⑤詳細設計検証|研修成果評価⑥アーキテクチャ設計検証|成果確認/戦略・戦術評価⑦妥当性検証|目標達成度確認。目標の妥当性確認【サポートプロセス】⑧プロジェクトマネジメント|研修マネジメント⑨育成環境|コンテンツ/ツール⑩外部委託管理|コンテンツ、ツール⑪文書化|ノウハウ蓄積→お客様の実態に合わせてテーラリング+改善


5.インストラクショナルデザインにおける人財育成ゴールの明確化と人財要求定義

 一般的な研修でも研修ゴールは設定されますが、インストラクショナルデザインでは最初に更に上位の“人財育成ゴール”に遡って検討します。組織方針、目標、戦略に合わせて将来必要な開発体制や必要な専門スキルを考慮して求める人財像(人財に対する要求事項)を明確化します。

 人財に対する“要求事項”であり、扱う対象が“要求”であるので、ソフトウェア開発で用いられている要求分析の手法を活用することで、効率的かつ抜け漏れの少ない要求定義が可能となります。

 下図は、ソフトウェアの要求定義手法の1つである、USDMを使って人財要求を整理したものです。求める人財にできて欲しい振る舞いをCan-Do形式で記述し、開発技術スキルや要素技術スキルなどの観点でグループ化することで、組織の求める人財要求を洗い出し整理することができます。

 ここで整理した人財要求を基に制約条件下で有効な育成戦略を立案したり、教育効果(スキル成長度)の測定のベースとして活用したりします。

【要求仕様】実開発業務のキーマンを想定し開発プロセス毎に「こういうスキルを身に付けて欲しい」「こういうい人財になって欲しい」をCAN-DO形式で具体的に記述。【職種別要求レベル】キャリアパスで作成した職種と要求とトレーサビリティを確認


6.実践力強化の鍵!効果的な0JTにするための“失敗からの学び”と“事前教育”

 エクスモーションではこれまで、技術トレーニングや、eラーニングを行う中で、「実践力強化」のための指導方法の概念を整理し蓄積してきました。これらのノウハウを基にリスキリング支援を進める中でさらに重要なポイントを追加し、実践の中で改善を進めています。

 特に重要なポイントとしては、ソフトウェア技術は範囲も広く常に進化しているため、限られた期間内ですべての技術内容を教え込むことは困難、ということです。

 必要なのは常に新しい技術に興味を持ち、どんな技術に対してもまずは全体を理解し、原理原則に立ち返って理解する。課題にぶつかった時には論理的に考え結論を導き出す“仕事の進め方”を学ばせることです。そのためにOJTは最適と言えます。

 OJTでは計画的・意図的に「失敗」を経験させることができます。実開発の中でも失敗から学ぶことは非常に多く、失敗を経験することで深く考察し改善方法を考えるなど課題対応力が上がり技術者としての成長に繋がります。

エクスモーションのトレーニング「実践力強化」を付けるための4つの理念①手を動かす②経験の共有③繰り返し④振り返り→実践→ノウハウ蓄積→【教育実施時のポイント&指導例】指導方針|考えさせる(マイコン機能やC言語の文法を個人またはグループで予習して発表させる(反転提案))、体験させる(回路や通信の理解のためにハードや車両を使った演習を入れる)、失敗させる(少しレベルの高い課題を与え失敗させる)。カリキュラム学習順序|先に全体を俯瞰する(最初にソフト開発の全体像を理解させるために開発プロセスから教える)、定着するまで繰り返す(予習→e-learning→座学→演習→振り返り→フォローを繰り返し)、目的に合わせた学習順序(上流ができる技術者を育成する場合は、実装の前に要求分析を教える)。コンテンツ指導方法|原理原則を教える(言語を教える前にマイコンの仕組みを理解させる)、関係を理解させる(各プロセス間の関連や成果物間の関連を理解させる)、実践事例ベースで教える(演習を行う場合の課題は、実開発対象となる製品を対象に検討させる)。可視化|状況の可視化(研修中は成績評価に加え、アンケート、面談を実施しモニタリングを行う)、理解度の可視化(何がどこまで理解できているかをできるだけ具体的に可視化する)、モチベーションの可視化(研修中は成績評価に加え、アンケート、面談を実施しモニタリングを行う)。

 また、OJTは実践形式での教育となるので、必要な前提スキルを満たしていない場合は、事前に基礎研修でスキルレベルを向上させる必要があります。

 基礎研修の企画においてOJTで必要となる技術要素やレベルを明確にし研修内容に落とし込むことで、スムーズなOJTが実施できます。既存の研修を取り入れる場合でも、可能な範囲でインストラクショナルデザインで検討した内容を取り入れることで教育全体として効率的な育成が行えます。

教育コンテンツ(システムズエンジニアリング、USDM、MBD、思考整理トレーニング)開発の上流に特化しプロジェクトを牽引できるコア人財を育成→教育内容(開発プロセス、製品知識、要素技術、専門用語、技術文書)←教育コンテンツ(企業内教育/市販研修|A-SPICE、機能安全、企業内標準開発プロセス)、リスキリング、ソフトウェア人財、効果的なOJT、実践力強化のためのトレーニング、インストラクショナルデザイン


サービスに関するご相談は
こちらからお願いします


7.コンサルタントが教える成功の秘訣

コンサルタント 古山 寿樹

 人財育成もソフトウェア開発同様、いかに要求仕様を明確化するかが重要です。ソフトウェア教育に限らず、効率的な教育を行うためには、育成目標(ゴール)の明確化が重要であり、ゴールを具体的にイメージし共有することで、ゴールに最短で到達するための戦略やそれを実現するための研修内容に落とし込むことができます。

 また、教育の難しいところは、対象が人であることです。いかに綿密な計画を立てたとしても、育成対象者のポテンシャルや状況により効果は変わってしまいます。そのため教育中のモニタリングと改善・フォローは非常に重要です。スキルの向上度合いやモチベーションの変化などを細かくモニタリングする仕組みを用意し、個人の特性や研修中の変化状況に合わせて、教育内容も改善していくような進め方を行うことで、確実な育成を実現することができます。

リスキリングの専門コンサルタント 古山寿樹


エクスモーションが提供するリスキリング関連サービス

リスキリング人財育成支援(トータルコンサル)

人財育成活動事務局メンバーの1人として参画し、活動の立上げから見届けまでリスキリング活動全体を支援します。
育成ゴール、育成戦略、育成計画の立案をサポートします。

リスキリング人財育成支援(育成戦略立案重点支援)

育成戦略立案と上流開発スキル習得を重点としたコア人財教育を支援します。
教育ゴール、教育戦略の立案や、上流開発スキル教育を行います。

リスキリング人財育成支援(ライトコンサル)

教育投資コストを抑え現在業務を継続しながら個人のペースに合わせた段階的なリスキリング活動を支援します。
育成戦略の診断や育成計画作成に対するアドバイスを行います。

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加