データ駆動開発のすすめ

車がネットワークにつながったことで、多種多様なデータを収集することができるようになりました。集めたデータを活用すれば、商品性やサービスを向上させることができます。しかし、データの活用には製品開発とは異なる知識や技術が必要なこともあり、データ駆動開発が定着していない開発現場も多いようです。
1.SDVにおけるデータ活用の位置づけ
SDVを実現するフローを、大まかに
1. 市場の車両からデータを収集する
2. 収集したデータを利用し機能の追加や改善を行う
3. 更新されたソフトウェアを市場の車両に配信する
という3つのパートに分けると、データの活用は2で行われます。

2.データ活用の具体例
具体的にイメージしやすいデータ活用の例は不具合解析でしょうか。これまでは、限られた情報(技術連絡書や市場技術速報など)から事象の再現や要因特定を行う必要がありました。
ここで、市場データを利用できれば、同じ不具合が起きた車両を抽出して、発生当時の車両状態や外界の状況、ドライバー操作などの情報を得られるため、真因に辿り着きやすくなります。
OTAによるソフトウェアアップデートで恒久対策を行い再発を防止できれば、顧客満足度の低下やワランティコストの増大を回避できるでしょう。
また、車両や搭載デバイスの実際の使われ方を市場データで把握することも重要です。そもそも、どう使われるのか把握しないままに、ユーザの求める製品を作ることはできないでしょう。
例えば製品の評価をする際、社内で試験条件やクライテリアが設定されていると思いますが、その条件や数値はどのように決められたものでしょうか。想定していない使われ方を市場でされていたり(試験が形骸化)、逆にクライテリアが厳しすぎて余分なコストをかけている可能性もあります。
他にも、走行中によく使われる出力領域(トルク、回転数)でのモータ・バッテリ効率を改善すれば、実電費の向上や航続距離の延長につながるなど、使われ方を知ることは様々な品質・コスト改善の第一歩といえるでしょう。
経験や過去の実績だけに頼らずデータ(事実)に基づいた「データ駆動開発」を積極的に導入していきましょう。
3.データ活用に必要なスキル
データ活用はPPDACサイクルにしたがって行います。Problemフェーズで問題を把握し、Planフェーズで仮説の設定、Dataフェーズでデータを収集、Analysisフェーズでデータに基づく分析、Conclusionフェーズで結果の考察(次サイクルでの新たな仮説を設定)を行います。
開発者であればドメインへの知識は十分にあるため、問題の把握や仮説の設定は問題なく行えるでしょう。しかし、それに続くデータの収集(D)や分析(A)では、普段の開発とは異なる技術・知識が必要となるため苦労しがちです。
冒頭の図における「前処理」では、生データを取り込んで利用しやすい情報に加工する必要があります。多種多様かつ膨大なデータは複数のストレージに分散して蓄積されていることも多く、まずはそれらをVINやタイムスタンプ、位置情報などから紐づける必要があります。さらに、分析に必要なデータが全て揃っていることは稀で、何らかの手段で2次データを取得または生成します。映像データへのタグづけ、Google Mapなどの地図APIを用いた周辺施設情報の取得、取得データをSimulinkモデルに入力して制御データを演算、など様々な手段を駆使することになるでしょう。
ある程度はBIツールでも「前処理」を行うことが可能ですが、速度面や自由度、将来的な自動実行なども考慮して、Pythonやクラウドのマネージドサービスを用いて様々なデータ処理を行えるスキルを身に付けましょう。

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4.コンサルタントが教える成功の秘訣
データ活用のPPDACサイクルは、今や小学生の教科書にも載っています。データ駆動開発を "当たり前" にしていくことは、製品の競争力維持には欠かせません。
なお、冒頭の図ではデータ利用者が各々データの前処理を行っていますが、これらの処理には時間がかかったり、セキュリティやプライバシーの要件に各データ利用者が準拠(対応)する必要があるなど、データ活用全体でみると効率的ではありません。
効率的なデータ活用には、クラウド(である必要はなく、要はサーバ)側にデータ基盤(Data Warehouse, Data Mart)を用意するなど、いわゆるデータエンジニアリングが不可欠です。ただし、目的もなく仕組みだけ用意しても使われないことは明白です。
開発現場でのデータ活用文化の醸成と、それらの活動を効率化するデータ基盤整備の両輪をまわしていくことが、データ駆動開発の定着において重要となるでしょう。

エクスモーションが提供するデータ駆動関連サービス
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